あれ?



真っ暗だ。


目を動かしても、動いている気がしないくらい真っ暗だ。



「真央さん」


暗闇の中、ポツリと聞こえたのは、愛しい人の声。

でも、ちゃんと耳に届いてない。
君の声が、ちゃんと聞こえない。


「真央さん」



聞こえない……いや、違う。


・・・・・・・・
声が覚えられない。


君の声が、記憶されない。

だから、思い出せない。


どんな音程で
どんな発音で
何を話しているのか

記憶できない。
思い出せない。




「蓮……蓮……」



真っ暗な中、必死に君の姿を探すけど



暗闇は君の顔すら見せてくれない。


暗闇は聞こえているはずの声さえ記憶させてくれない。


どうして。
何で。


なぜ……?







カクンッ





頭が落ちて、目が覚めた。
体はフワリとした物が支えている。


どうやら疲れてソファで眠ってしまったらしい。
今何時だろう、と慌てて時計を見る。

0時45分。



真夜中だ。


朝じゃない。良かった。
ホッとした瞬間、ガチャ、と音がする。

玄関か……誰か帰ってきた?
ママたちが帰ってくるのにはまだ早い。


まさか。

スタスタと歩く音。それは一瞬止まる。

まさか、


蓮?



慌てて、寄りかかっていたソファから立ち上がろうとするが

眠っていたせいか、体が重くていうことをきかない。

早く、早くしなきゃ。
早く動かなければ、蓮に会えない。


案の定、リビングに私が居ることに気づいたのか、足音の主は急に動き出した。


待ってよ。

ねぇ待って……。