「ただいま」


ガチャリと重い扉を開け、真っ暗な家へと入る。



蓮の靴がない。



ということは……今日も蓮は、帰ってきていない。




ご飯、いるのかいらないのか……連絡くらいくれてもいいのに。


ママたちが出張に行くまでは、昌彦さんから聞いてたしなあ。


一応、夕飯は2人分作るか。





ふぅ、と嘆息して、リビングとキッチンを覗く。




いないと分かっていても、やってしまう嫌な癖。


本当に馬鹿だ私は。


余計悲しくなるだけなのに。





自分の部屋へ向かい、着替えようとする。


扉の前までつくと、ピタリと立ち止まった。




これもまた、嫌な癖。


隣の扉を、しばらく見つめる。

もしかしたらこの向こうに蓮が居るかもしれない。

ノックすれば返事が返ってきて、

開ければあの飄々とした態度で私を見つめてくるかもしれない。



そんな期待を胸に抱きながら、私は毎日この扉を見つめる。



でも期待はいつも儚く消えて

俯きながら、自分の部屋に入るんだ。



もうあの日から1ヶ月近く日が過ぎた。


だからもう、こんな嫌な癖はやめたい。


いい加減諦めなきゃダメなのに。


独りよがりはやめたいよ。




でもさぁ……本当になんでかな。


私、諦め悪いみたい。





蓮に会いたいって、

まだ思ってる。



虚しいけど…でも、


それでも、



蓮が、好きなんだ……。