「お」

パチリと目が合った人は男子で。
サラサラの黒髪が蓮と重なる。

「すげ!吉岡が俺と目ぇ合わせてる!」
ザワザワとざわめきだす教室に、私の心は無い。体がポツリと置いてあるだけ。
ああ……私、今、空っぽなんだ。


海城蓮というたった一人の人間と関わらなくなっただけで、こんなにも私は脆くなっちゃうんだ…。
情けない。

「吉岡吉岡!生きてッか?」

「……ん」

「おぉ喋った!」
「真央ちゃん成長したんだぁ~!」




ザワザワ

ザワザワ


違う。
違うよ。
私が聞きたいのは、こんな雑音じゃない。
聞きたいのは、
耳にフンワリと届く、甘いテノールの声。



「吉岡こっち見て!」
目に入ったのはサラサラの黒髪。

でも、違う。
君じゃない。
……蓮は、そんな風に笑わない。

ふ、と目を細めて、綺麗な唇がゆっくりと弧を描くんだ。もっと品があって、もっともっと、ドキドキするような、そんな笑顔なんだ。


あれもあれも、蓮とは全然違うや。


そう思うとますます、私の心はカラカラになっていくんだ。

全く、誰のせいだろうね……。