「……分かったわ」

彼女は、ふぅ、と諦めたように嘆息する。

「で・も!」

「ふごっ!?Σ」

安心したのも束の間、紫の細長い指が、私の頬に直撃。
ぐ……地味に痛かった。


「どうしようもなくなったら、一番に私に話しなさいね?」

「……うん」


分かればよろしい、と指を離す。
ありがとうと告げれば、何を今更、なんて彼女らしい言葉が返ってきて。
胸がホワリと温かくなった。



もし、壊れそうなくらい思い詰めてしまったら

紫に甘えてしまうかもしれない。

でも紫は、それを受け止めるって言ってくれたんだよね。

ありがとう。そしてごめんなさい。

いつか、いつか話すから。
それまで隠させてください。


















予鈴が鳴って、紫は席に戻り、教室には人が集まってくる。
ふと。忙しく目を動かす自分に苦笑した。
この数週間で、なんとも嫌な癖がついたらしい。

いるはずがないのに。って、アイツならもしかしたらいるかもしれないんだけど(神出鬼没だから)。


白いシャツを着た男子の中に、つい蓮の姿を探す自分。
悩みの種であるアイツを探すなんて、自分で自分を傷つけてるようなものなのに。なんでかな。


あの日から、君の笑顔を見ていないから?
ああ……そうかもしれない。

楽しそうにケタケタ笑う男子が蓮だったら、なんて。勝手に蓮を投影して。

馬鹿だよね。切なくなるだけなのに。悲しさが増すだけなのに。
でも、やめられない癖。


なんて、嫌な癖なんだろう。