雨足が強まった瞬間。
背後に何か、懐かしい気配を感じた。
「ちょっと早いけど──」
忘れもしない、待ち焦がれた恋しい声──。
振り返った私の瞳に映るのは、相変わらず雨に濡れたオレンジと、端正な顔立ち。
「ただいま、澄川さん」
私は堪らず彼のもとに駆け寄った。
いきなり何も言わずに飛び付いてきた私の体をしっかり抱きとめて。
そして、今まで会えなかった分だけ、強く強く、抱き締めてくれた。
私は出会った日に彼にされたように、自分よりも彼に傘をかけてあげる。
「約束通りだろ?」
「うん」
時雨の夜に、二人で交わした約束──。
──それは、雨男との、不思議な恋の始まりだった。
END