「それで、俺はみんなを止めたんだ。けど、出て行こうとするやつらはみんな聞く耳を持たなかった。その所為で、事務所の中はギクシャクして、前まで明るかったのに気分が落ちて……」
うちの所為……?
ふとそんな考えが過ぎった。
「それって、うちの所為ですよね」
「え!?いや、稜を責めてるわけじゃねぇよ。ただ、稜が居なくなった理由が理由だったからな……」
そうなんだけど……。
うちが居なくなった途端に、沢山の人が事務所を辞めたって言われると、なんか責任感じるよ……。
「なんかすいません……」
「だから、稜の所為じゃないって。……それでな?」
哲さんはここまで言って言葉を切った。
そして、唐突に立ち上がると店の入り口付近へ視線を投げた。
「組長……」
「え!?」
哲さんの言葉にびっくりして、うちも立ち上がり振り向く。
「組長!?」
そこに立っていたのは、岸田組の組長だった。
「何……してるんすか」
ちっちゃい声で呟くと、その席から移動して組長の前まで行く。
「何してるんすか」
さっきとは違った力のこもった声で組長に話しかける。
その声は、はっきり敵意を感じさせるものだった。