「そうか」
少し微笑んだ組長の顔には寂しげな表情が一緒に浮かんでいた。
「組長は?」
「相変わらず、へぼい組の組長してるよ。組員だって前より減ったしな」
「へぼいだなんて……」
岸田組は、誰もが人情に厚く、正当な喧嘩しかしない。
……喧嘩に正当なものがあれば、の話だけど。
「ほら、哲いただろ?あいつ、病気で入院してんだよ」
哲さんとは、うちが岸田組に入ったときに部屋から何から世話してくれた当時の下っ端。
少し病気がちだったから、あまり外に出ず、事務所の中で家事全般をこなしていた。
「哲さんが!?……そうですか。どこに入院されてるんですか?」
うちが聞くと、組長はちょっと表情を曇らせた。
「……それが、俺らにもわからないんだ」
「え?」
「ある日突然いなくなって、連絡してきたと思ったら外の公衆電話。"自分、元気なんで気にしないでください"って言った」
ふと思い出すように視線を遠くへ投げて、組長は続けた。
「どうしてるんだ、と聞いても、ただ入院しただけですって言うだけ。どこの病院かを聞いたら答えずに切っちまったんだ」
「そうですか……」
かける言葉が見つからず、そう言って俯くしかなかった。