不思議と目覚ましより早く起きられた朝は、スッキリしていて気持ち良かった。
「おはよー」
語尾に音符をつけながら居間に入れば、まだご飯を食べていた香矢と三波が驚いた顔をした。
「お、おはよ…」
「どうしたんだよ、稜」
口々に驚きの言葉を発して、手の動きを止めた。
「なんだよ。そんなに驚くことないだろ。たまには早く起きてぇの」
べーっと舌を出してキッチンにいる母さんに声をかける。
「あら、早いね、稜。槍でも降るのかな」
「母さんまでバカにすんじゃねぇよ」
ブスッとして冷蔵庫から水を取り出す。
一口飲んで息をつくと、母さんから焼いたパンを差し出された。
「お、ありがと」
それを受け取って食卓に着けば、珍しく三波がコーヒーを淹れてくれた。
「なんだ、これこそほんとに槍降るんじゃねぇの」
なんて冗談めかして言うと、三波が照れ隠しにバシッとうちを叩いて居間を出て行った。
「稜。なにかいいことでもあったのかい」
後ろから声をかけられて振り向くと、穏やかに微笑んだおばあがいた。
「別に。なんもねぇけど」
澄ましてそう返して、最後の一口のパンを口に放り込んでコーヒーを飲みほした。