たぶん3分くらいの間、居間にはシーンとした空気が漂った。


それは緊張したものじゃなくて、それぞれが今の話に思いを馳せているような、そんな空気だった。


「……まさか、親子して同じようなことになってるなんてね…」


可笑しそうに、寂しそうに笑った母さんの言葉の意味は、バカなうちにも分かった。


「稜。あんたは、その恋諦めちゃダメよ?あたしはたっちゃんっていう選択肢がなかったけど、稜は違うわ。


目の前に自分を好いてくれる人がいるなら、その人を離しちゃダメ。


目の前に自分の好きな相手がいるなら、その人から離れちゃダメ。


なんとしてもしがみついて、護り抜いて見せなさい。あたしたちは応援するわ。力になるから」


母親としての顔じゃなく、女としてのアドバイスだった。


そんなこと言われても、栗崎家とあんなことになって、もう一度あいつと笑いあえる自信がねぇ。


「……だけど、もういいよ。今はあいつと一緒になりたいとか思わねぇ。


今はただ、栗崎の親父をどうにかしねぇとだろ?うちの恋のことなんか、どうでもいい」


本心だった。


例えば、またあいつと会えても、栗崎の親父の顔が頭をかすめて、脳内はそのことでいっぱいになって終わりだろう。


どうせまた会うなら、何もかも終わらせてスッキリした状態で会いてぇ。