「俺はずっと、歌南虎のことが好きだったけど、別に言うわけでもなく仲間として居たが、栗崎は違った。
出会って1週間で、抜け駆けしようとしやがった」
さらっと恥ずかしいことを言って、さらに続ける。
「あろうことか栗崎家の坊ちゃんでイケメンの生徒会長が、ただのヤンキーに恋したなんて、学校中が放っとかなかった。
俺も我慢してきた何か月がバカらしくなって、俺も歌南虎に思いを伝えて、あとは歌南虎が選ぶだけだった」
今のうちと状況はそんなに変わらないわけだ。
相手の男が1人か2人かの違いってだけ。
「しばらくは答えを出さずにいたんだけど、卒業を目前にして、2人に迫られちゃってね」
思い出してクスッと笑った母さんは、ちょっと女の顔をしていた。
「どう考えても、たっちゃんとくっつくなんてあり得なかった。時代が時代だけにね。
もちろん、たっちゃんのことは好きだったし、一緒にいて面白い人ではあったけど、恋愛とかそういう対象じゃなかったのよね。
だから、あたしは輝ちゃんを選んだ。もともと、輝ちゃんとは気が合ったし、付き合ったら楽しそうって思ってたの。
まさか、結婚することになるとは思わなかったけど」
冗談っぽくそう言えば、親父も母さんも笑った。
こんな状況なのに、昔話で笑いあう2人が羨ましくも憎らしい。
「お互い納得したし、たっちゃんもあたしたちが付き合うこと、応援してくれたのよ。
″惚れた女にゃ幸せになって欲しい″とかカッコつけちゃって」
「高校を卒業してから、俺はこの家を継いだし、歌南虎には家に入ってもらうための修行的なことをしてもらった。
栗崎はそのまま大学へ進んだから、俺ら3人で顔を合わせることはそこからほとんどねぇんだよ。
だから、今更恨まれる筋合いもねぇがな」
意外だけど、どこかで想像していた話は、親父の一言で終わった。