″親父もう″
そのあとの言葉は、大体見当がつく。
火山が噴火しそうなほど、顔を真っ赤にして怒っているんだろう。
分かってるけど……。
うちだってもうガキじゃねぇんだから、心配してもらうほどのことはねぇと思ってる。
それでも、うちだけじゃなくて、母さんやおばあ、香矢たちにまで被害が及ぶから、帰らないわけにはいかない。
「…うしっ」
掛け声とともに、立ち上がってバイクにまたがると、エンジンをかける。
ゆっくり走らせて家を目指しながらも、頭の中は栗崎のことでいっぱい。
心はまだ沈んだまま。
「……ただいま…」
これもまた蚊の鳴くような声で。
靴も静かに脱いで上がって、居間の襖を細く開ける。
「…稜か」
襖に背を向けて座ってるじいが優しく声をかけた。
「輝之なら奥だ」
それだけ言って、じいは相撲に熱中し始めた。