頭が混乱してくるなか、一つの心配が浮かんだ。
「まさか…」
うちはこの家の跡取りとして決まってるらしいけど、うちが反対してこの家と縁を切ってしまえば、跡取りは三波か香矢になる。
栗崎の親父は江戸前一家の跡取りをさらえと命令してるんだから、跡取りになる可能性のある2人と、権限をもつおばあをさらったとしてもおかしくはない。
でも、だから何のために?
ソファに身を沈めて考え込んでいると、ケータイがポケットで震えた。
「…もしもし?」
番号は非通知だったため、ちょっと間をおいて出る。
「お、稜か?」
聞こえてきたのは懐かしい岸田組長の声。
「組長!!久しぶりですね。どうしたんですか?」
さっきのいぶかしげな態度とは打って変わって、ソファから立ち上がるほど勢いをつけた。
「おう。……唐突で悪ぃんだけど、信二からお前んとこに連絡来てねぇか?」
「信二っすか…?いや、来てないっすけど」
ホントに唐突に、組長はそう問いかけた。
「なんかあったんすか?」
「いや……ちょっと、な…」
躊躇いがちな組長の言い方に、頭を過るのはさっきのこと。
ちょっと心配になったため、組長と岸田組の事務所で落ち合うことにした。