こんな状況なのに、こんな甘い時間に酔いしれてしまいそうになる。
栗崎の匂いと温もりに包まれながら目を閉じかけたそのとき。
ガタ……。
ガタガタガタっ!!
ドアのそとで大きな物音がして、うちと栗崎は一瞬にして離れて身構えた。
「何の音だよ」
「わかんない。でも、あいつらが動き出したことは確かだね」
…この状況、楽しんでるのか、あんたは。
そう問いかけたくなるほど、栗崎の声には楽しそうな響きがあった。
栗崎の言う″あいつら″とは横田組の組員のこと。
「坊ちゃんっ!!中にいらっしゃるんでしょう、坊ちゃんっ!?」
さっきの立花とかいう男の声がした。
「俺のこと呼んでるね、立花」
うちのほうを振り返って、ドアを指さしながら笑う。
「バカか、お前っ!!そんな呑気なことっ……」
さっきと同様、栗崎が目の前にいる状況が作られる。
「呑気なつもりはあんまりないんだけどな。 あいつらはさ、俺らの関係知らないから俺が稜ちゃんに捕まってるって思われてるかも知れない。
ちょっと、手荒な真似されても勘弁してな」
優しく微笑んだ栗崎の目に吸い込まれそうになったけど、それはドアが蹴破られる音で阻止された。