うちをさらったって、なんにも楽しいことなんかない。


身代金なんか要求したって、うちの組員が乗り込んでくるだけだろうし。


「意味わかんねぇ……。うちなんかさらって、何になんだよ」


「俺にもわかんねぇんだよ。…あ、そうだ。これ」


栗崎はジーパンのポケットからブレスレットを取り出した。


「それ、うちの…」


あわてて右手を確認すると、栗崎の家にいるときはちゃんと付いてたはずのブレスレットがなくなっていた。


「稜ちゃんが帰った後俺の部屋で見つけて、慌てて後追いかけたら、うちの組員が稜ちゃんをさらってるとこだったんだ」


普通に″うちの組員″って口にしちゃう感じは、ちょっと怖いかも。


「気づかれないように奴らの後を付けてここまで来て、稜ちゃんを連れてったところで思い当たったんだ。


昨日、親父が部屋で″江戸前一家の跡取り、真木稜をさらってこい″って電話してるのをさ。


それだけ言って、親父は電話切っちゃったから詳しい話は全然わかんないんだけど。


あいつらは俺の顔知ってるから、普通に入れてくれて。あいつらの目を盗んでここに入ってきたってわけ。


そろそろ……騒ぎ始めるんじゃねぇかなぁ」


チラッとドアの方に目をやって、栗崎はうちの横に座る。