「なぁ、今日久しぶりにお前ん家泊まっていい?」

なんだそんなことか。

「別にいいけど、一泊五百万円ね。」

「出世払いでね。」

この出世払いほど当てにならないものがあるだろうか。

「え~なになに?雅人、修一ん家泊まるの?うちらも泊めてよ。ね、加奈子っ。」

後ろから岸田香織の大きな声が被さってきた。サークル内では一、二位を争う厄介者だ。小さな事でも騒ぎ立て、すぐ事を大きくするので、周りに居る者は疲れてしまう。そんな岸田は女子の間でも浮いているが、本人はまったく気づいていないようだ。友達と言えるのは大原ぐらいだろう。以前、どうして岸田と仲がいいのか聞いたことがある。

「あれでなかなか良い所もあるんだよ。」

と、大原は困ったように笑っていた。

 さて、岸田の申し出をどうやって断ろうかと考えている間に、雅人がサラッと受け流していた。

「だめだめ。今日は俺ら二人で愛を深めるんだから。」

「え~。なにそれ。」

「ほら、行こう香織。じゃぁね、好きなだけ愛を深めてください。」

思いっきり不満そうな岸田を強引に大原が引っ張っていった。そんな二人を、雅人はひらひらと手を振りながら見送っている。二人が見えなくなると、僕は雅人を自転車の後ろに乗せて走り出した。途中スーパーでビール一ケースとつまみを簡単に選んで、そのままマンションへ向かった。

「あー暑い。修一、シャワーとなんか服貸して。」

と言ってエアコンをガンガン下げていく。人の家に上がり込んだ途端これだ。
 
 僕らは交互にシャワーを浴びて、さっき買った袋の中身をテーブルに広げた。

「なぁ、お前大原と実際どうなのよ?」