その日、僕は彼女の姿が見えなくなると同時に、思いっきり走り出した。今日は文化祭の打ち合わせが合ったのだ。多くのサークルが、文化祭は二年生が中心となって進めていく。うちも例外ではない。
家に着くと同時に携帯がなった。

「おい、おまえなぁ何回電話したと思ってんだよ。今どこだよ。」

案の定お叱りの電話だ。

「ほんっとごめん。今すぐ行くから。」

「差し入れもってこいよな。」

「そりぁもうたっぷりと。」

「じゃぁ早くこいよ。」

「すぐ行く。」

 電話を切ると雅人からの着信が七件も入っていた。大急ぎで服を着替えて愛車(もう五年目になる自転車)にまたがった。大学までは自転車で三十分ほどだ。この歳になって自転車の立ち漕ぎをするとは思わなかった。せっかく着替えたのにもう汗だくだ。
 僕は大学のテニスサークルに入っている。テニスサークルっていうと、男女仲良くキャーキャー言っているようなイメージだけど、僕のサークルは大学一小さい団体で、ほとんど来ない四年生を抜かすと、全部で十五人くらいしかいない。なんかもう大家族みたいな感じだ。
 途中のコンビニでお菓子とジュースを買い込んで、僕は教室に駆け込んだ。

「おそ~い。」

教室に入るなりブーイングの嵐だった。

「ごめんごめんごめん。」

ひたすら平謝りするしかない。

「差し入れは持ってきたんだろうな?」

無言でパンパンに入ったコンビニの袋×2を差し出す。

「こりぁ大量だ。許してやるか。」

「助かったぁ。」

急いで席に着くと、ドッと汗が噴出してきた。

「すごい汗。」

後ろに座っていた大原加奈子がタオルを差し出してくれた。