「おいおい、まだ八時だよ?」

「だってお腹空いちゃったんだもん。」

「よし、じゃぁ何か喰いに行くか。」

「あ、でも私お金持ってない。」

「俺に任せなさい。」

僕は勢い良く立ち上がった。

「ちょっとぉ、任せなさいって牛丼?普通女の子をこんなとこに連れてくる?」 

「しょうがないだろ、ジョギングしてる時にそんなお金持ってないし。」

「もぉ~。」

「嫌なら俺喰っちゃうよ?」

「食べるよ。お腹くっついちゃうもん。」

「じゃぁ文句言わずに食べなさい。」

「はぁ~い。」

 牛丼を食べ終えて一歩外に出ると、夏の日差しがガンガンに照っていた。杏子は手をかざして太陽を見上げ、

「あっつぅ。」

と言った後、僕を振り向いてお腹をポンポンッと叩いて見せた。

「ん~お腹いっぱいっ。ご馳走じゃないけど、ご馳走様。」

「お礼かわからないけど、どう致しまして。」

「じゃぁね。」

彼女にそう言われた瞬間、とても名残惜しくなってしまった僕はつい

「また明日。」

と口に出していた。どちらかというと草食男子気味な僕にしては、随分思い切った発言だ。彼女はどう感じただろう。言ってしまってからなんて言い訳しようかと頭をフル回転させていると、意外にも彼女は、ふふっと小さく笑って

「うん、明日ねっ。」

と言って手をひらひらさせながら走って行った・・・あ、止まった。急に止まってくるっと向き直った彼女は大きく手を振り出した。

「ばいば~い。」

僕は恥ずかしくて中くらいに手を振り返すと、彼女はまたくるっと向き直って僕の視界から消えていった。

 それから僕は、長年六時に掛けていた目覚ましをあっさり五時半にセットし直して起きるようになった。公園に着くと、そこには必ず彼女が待っていてくれる。四、五日も経つとそんな日々が当たり前になっていた。僕らは毎日、血液型や嫌いな食べ物など、本当に他愛もない話をして過し、その度に、少しずつお互いについて詳しくなっていった。それは、長い一日のほんの僅かな時間で、あっという間に過ぎていった。