「事故にあったあの旅行で、私達仲良くなるはずだったんだって。仲良くなって、付き合って・・・。」

杏子の目からたくさんの涙が溢れている。その涙が、この信じられない話を受け入れざるを得ない、という事実を物語っていた。僕はテーブルをずらし、彼女を抱き寄せた。

「修一の夢、聞いたよね?」

「うん。」

「私、本当は修一を生きさせてあげなきゃいけないのに、夢なんかないって聞いてほっとしたの。本当は未練を持たせてあげなくちゃ、生きたいって思わせなくちゃいけないのに・・・。一緒にいればいるほど・・・どんどん好きになっていって・・・ずっと一緒にいたくて・・・一人になるのが怖くて・・・私のこと忘れちゃうのが・・・他の人好きになるのが・・・恐くて・・・だから・・・。ごめん・・・ごめんね修一・・・」

「もういい。もう何も話さなくていいから。」

僕は彼女をさらに強く抱きしめた。

「ごめんな。杏子は一人で苦しんでたのに。俺、一人で舞い上がって、余計杏子を苦しめてたんだな。・・・俺・・・いいよ。俺も杏子とずっと一緒にいたい。現実じゃなくてもいい。幻でもなんでもいい。杏子といたい。」

杏子は僕の腕の中で何度も何度も首を横に振った。

「だめだよ。修一は生きて。生きる為にここに来たの。生きる為に私に会ったの。」

「なんでそんなこと言うんだよ。」

「修一が意識を取り戻すのを、ずっとずっと待ち望んでる人がたくさんいる。お父さんも、お母さんも、お兄さんも、雅人君達も。」

「そんなのどうだっていいだろ。」

僕は彼女の言葉を遮った。

「俺は杏子が一番大切なんだよ。」