「前は俺、小学校の先生になりたかったんだ。」

「小学校の先生?」

くるっと杏子が向き直る。彼女と目が合わないように、僕は前だけを見て話しを続けた。

「そう。なんでかわかんないんだけどさ、もう自分が小学生の頃から先生になりたかった。それか中学の先生。」

「そっか、先生かぁ。うん、修一に合うかもしれない。」

この時、何故か杏子はとても悲しげな声していた。

「あ、でももう無理だし、今は全然だよ。」

「え?なんで?」

「俺さぁ、大学入学してすぐの頃、塾の講師のバイトしたんだ。なんてゆぅのかな、一応、予行練習的な感じで。」

「うん。」

「でもさぁ、無理だった。・・・大変だったよ。思ったより何倍も何倍も。ただ子供が可愛い、好き、なだけでできるような甘い仕事じゃなかったんだ。俺が見てたのは一クラスたった五人程度だったのにさ、それなのに全然まとめられないんだ。あぁ、俺じゃ無理だなってすごく感じた。」

こんなこと言ったら、余計頼りなく思われるだろうか。

「後悔してない?」

少し間をおいて彼女が聞いた。

「してないよ。」

それは本心だった。

「まぁ教職の資格だけは取っておけばよかったって思うけど、教職取ったところで教師にはならなかった。だから・・・今は夢ってゆぅ夢はないかな。」

「・・・うん。」

とだけ言って杏子はまた黙ってしまった。いったい何が聞きたいんだろう。僕はどうしていいか分からず、同じ質問を彼女に聞いた。

「杏子は?」

「え?」

「杏子の夢。」

彼女は僕を見て弱々しく微笑んだ。

「考えてもみなかったなぁ。」

杏子はぴょんっとぶらんこを降りると、前の手摺りに
向き直って座り直した。

「前はあったんだよ、私にも。」

「へぇ、どんな?」

「秘密。」

「なんだよ聞いといて。」

僕が本気で睨んでるのに、杏子は平気な顔であっかんべーをしている。

「強いていえば今、かな。」

「何が。」

言葉の意味が分からず、僕はまだふて腐れながら聞いていた。杏子は僕のぶらんこの前で中腰になり、まるで子供をあやすように頬を優しく抓った。