「あのさ。これからも・・・こうして会ったりできるかな?」

「え?」

「朝だけじゃなくて、昼間とか、夜とか、どっか出かけたりとか。」

男らしく一言で決めようと思っていたのに肝心な言葉が出てこない。杏子も意味を察したらしくちょっと困った表情をしていた。その表情を見て、余計言い訳みたいな言葉ばっかりでてきてしまう。

「ほら、朝の時間だけじゃあんま話せないし、ご飯とかもたまには一緒に食べたいし・・・。嫌じゃなければなんだけど。」

彼女はずっと下を向いている。どうしようか。無理だと分かっていても言った方がいいか。それともこのまま諦めた方がいいか・・・。長い沈黙が僕らを包んだ。何か言おうと思うのだが、彼女の反応を上手く受け止められないままで、頭が全然働こうとしない。
 先に口を開いたのは杏子だった。

「修一は夢ってあるの?」

しばらく何かを思い詰めたように口をつぐんでいた杏子が思い切ったように聞いてきたのは、そんなことだった。

「ゆ・・・夢?」

面食らった僕の声は思わず裏返ってしまった。

「そう、夢。」

笑いもせず、彼女は真剣な眼差しで月明かりに照らされた暗闇を見つめている。

「夢かぁ・・・。」

僕は少し考えた。来年は就活が始まる。そろそろ僕も真剣に将来を考えなくてはいけない年齢になった、それはわかる。だけど、それ以上のことなんて考えていなかったのが事実だ。普通の会社に入って、サラリーマンになって、いずれは結婚をして子供も二、三人欲しい。その程度。杏子の質問の意図が分からない僕は、正直に話してみることにした。

「前はさ。」

「うん?」

視線も表情も崩さずに杏子が聞く体勢を作る。僕は咳ばらいをして続けた。