「だってなんか思いつめた顔して言うんだもん。何か
と思っちゃった。いいよ、付き合ってあげる。」

一瞬、『付き合う』の意味を誤解してしまいそうになる。(紛らわしく言うなよ・・・)それでも嬉しさは隠せなかった。


結局、その日は一日そわそわして過した。案の定授業なんて上の空だ。普段は気にしたこともなかったけれど、こんな時に限って雅人と二人きりになれるタイミングがない。けれど雅人にだけは話しておきたかったので、民法の授業中、僕は多少強引に雅人を連れ出して、今日のことを話した。

「出会って間もないのは自分でも分かってるんだけどさ。どこが、とかは俺もはっきり言えないんだけど。もしかしたら雅人が言う通り、会ったその日にはもう惹かれてたのかもしれない。」

僕は正直な気持ちを話した。からかわれるかと思っていたけれど、雅人は意外にもあっさりとしていた。

「まぁ、そうゆうもんなんじゃないの。理屈で考えられるうちはさ、きっとどこか本気になりきれてないのかもしれない。」

「うん。」

「俺さ、大原のこと好きなんだ。」

それは何となく感じていたことだった。けれど本人の口から聞くと、その事実が少し重みを帯びたような気がした。

「でもさ、俺、冷静なんだよ。確かに大原の気持ちは悔しかったけど、でも、応援してたのも本気なんだ。あいつのどこが好きなのかも、俺、細かく言える。」

僕は黙って雅人の話を聞いていた。

「俺さ、きっとお前のこと好きな大原が好きだったんだよ。お前のこと一生懸命考えて、傷ついたり喜んだ
りしてるあいつがさ。」

そこまで言うと雅人はふうっと息を付いて悪戯っぽく僕の顔を見た。

「良く言うだろ?恋はするものじゃなくて、落ちるものだって。俺は恋をした。お前は恋に落ちた。その違いだよ。」

僕らは顔を見合わせて笑った。たぶん雅人の言葉は嘘ではない。だからこそ、きっと余計に傷付いている。それが、僕を想っている大原に対してなのか、そんな大原の気持ちに応えられない僕に対してなのか、僕には分からなかったけれど。