翌朝、僕は久しぶりにジャージに着替えた。起きられるか心配だったけれど、目覚ましより早く起きてしまった。久しぶりなので入念にストレッチをした後、いつもの道へ走り出した。公園に近づくと、鼓動が早まっていくのが分かった。たぶん、久しぶりに走ったせいではないことは、もう自分でも気付いている。逸る気持ちを抑えて、まずは自動販売機にお金を入れていく。ガチャンと音を立ててミネラルウォーターが出てきた。
 僕は一度目を閉じてふぅっと小さく息を吐くと、クルッと勢い良くベンチを振り向いた・・・とたん、自分の顔がだらしなく緩んでいくのが分かる。

「杏子!携帯教えて!」

・・・苦笑。見つけたとたん言ってしまった。杏子もさすがに驚いてキョトンとしていたが、すぐに携帯を取り出して番号を教えてくれた。

「そうかそうか、そんなに寂しかったか。」

杏子は探るような目で僕の顔を覗き込んでくる。

「いや、別にそんなんじゃないけど・・・。」

我ながら最後がいつもだらしない。

「で、どうだった?文化祭。」

杏子はベンチに座り直しながら僕を見た。

「うん、まぁまぁだったよ。」

僕はこの四日間の話を掻い摘んで説明した。そんな事より、今日はどうしても話したいことがあったのだ。一息に話し終わると、

「ちょっとたんま。」

と言って、僕はミネラルウォーターを一気に飲み干した。そんな僕を見て、杏子は隣でクスクス笑っている。

「あ、あのさ。」

「ん?」

振り向いた杏子と目が合い、僕は咄嗟に目を逸らす。

「あのさ、今日夕方空いてないかな?」

これが本題だ。

「夕方?」

杏子は不思議そうな顔をしている。

「うん、今はこれから授業があるから行かなきゃいけないんだけど、また夕方、ちょっと会えない?まだ話したいこともあるし。」

授業なんて本当はどうでもよかった。いつもと違う時間に会う口実が欲しかっただけだ。僕はこの四日間を通して、そして今日彼女に会ってみて、自分の気持ちをはっきり確信していた。

「なんだ、そんなことか。」

「なっ・・・そんなことってなんだよ。」