カレンダーはもう九月に入っていた。結局前期と全く同じ科目をそのまま取り、二ヶ月ぶりにまた大学へ通う毎日に戻った。授業が始まって直ぐ、僕らは文化祭の準備で毎日遅くまで残っていた。毎年お世話になっている業者に注文の電話をしたり、立て看板やチラシを作成したり、先輩に招待葉書を書いたりと、とにかくやることに追われていた。この時期は、どの団体も学校に泊り込みが出るほど慌ただしい。
 けれど、それでもジョギングだけは欠かさなかったから、僕は毎日彼女に会っていたし、その度色々な話しをした。サークルの事や、文化祭の事、コンビニの変わった店長の事、昨日見た満月の話。時には時間が惜しくてサークルに遅れたりもした。その度に僕は寝坊を理由にしていたが、おそらく雅人だけは気付いていたのだろう。いつもニヤニヤした視線を僕に送ってきていたから。

 そうこうしているうちに、あっという間に文化祭の日がやって来た。文化祭には毎年、受験生も多く来場する。言わば新入生獲得のチャンスなわけで、あちこちで激しいビラ配り合戦が始まる。どこも一番ルックスが良い男女を勧誘担当に配置して引き込もうとする。部員数が圧倒的に少ない僕らのサークルでは、僕を含めまともに戦っては勝ち目がない。そこで僕達は唯一飛びぬけているであろうキャプテンのキャラクターを前面に出す、という賭けに出ていた。とても大学生とは思えない程厳ついパンチパーマ(通称パンチ)を我がサークルの広告塔としたのだ。パンチを先頭に、周りを女の子で固めてビラを配る。そうすることで、サークルのキャラと仲の良さをアピールするのだ。まぁ、この作戦が上手くいったかどうかはともかく、一個二百五十円のアイス天ぷらの売れ行きはとても良かった。注文していたアイスも、最終日の午前中には全て売り切り、途中からは片づけを始めていた。さすがに文化祭の間はくたくたになる為ジョギングには行かなかった。杏子にもそのことは伝えてあったし、一応、文化祭に呼んでみたのだが、やっぱり来てはくれなかった。もう四日、会っていない。