「・・・うん。」

タクヤが点けっぱなしにしていたテレビを消すと、部屋の中はとても静かになり、蝉の声がより一層大きく感じた。

「不思議なんだけどさぁ。ってかこんなこと言ったら気持ち悪いって思うかもしれないけど、俺、初めて杏子と公園で会った時、前から知っていたみたいな、そんな感じがしたんだ。何言ってんだろって俺も思うけどさ。」

口にしてみて、恥ずかしさがドッと溢れてきた。

「ううん。ありがと。」

「いや・・・」

赤くなった顔を隠すように、僕は時計を見た。

「もう九時か、遅くなっちゃったな。送ってくよ。」
まだスヤスヤ寝息を立てているタクヤを起さないようにそっと背負う。こんな時間になるのに外はいつまでも蒸し暑い。

「タクヤって漢字、どう書くのかな?」

「開拓の拓に也。」

「そっか。」

僕はぼんやりとその漢字をを思い浮かべてみた。

「良い名前だな。」

それから僕達は、ほとんど何も話さずに帰り道を歩いた。細い月の光が僕らの影をゆらゆら揺らしている。