しばらく黙っていた雅人は、

「はぁ~。それであれだ。好きなっちゃったわけだ?」

と僕に冷やかすような目を向けた。

「いや、そうゆうんじゃないよ。ただ、なんか気になるんだよ。好きとかじゃなくてさ、前にどこかで会ったような・・・なんてゆうのかな・・・。」

「お前さぁ、小説の読みすぎなんだよ。」

雅人は呆れたように言った。

「そうかもな。」

自分でもそう思う。

「そういや、あの例の夢はどうした?毎晩見るって青
い顔して言ってたやつ。」

「あぁ、ここ何日か見てなかったよ。そういえばあの夢見なくなったのもあの子と会った日からだったな。」

「お前ねぇ。」

「分かってるよ。小説の読みすぎだろ?もういいよ、そんな話は。」

「そうだな。」

雅人はひょこっち首をすくめてビールに手を伸ばした。

「そう。久しぶりなんだし、たくさん飲もうぜ。」

僕らは「お疲れ」っと言って互いの缶をぶつけた。元々酒に強くない僕らはあまり飲む方ではないのだが、それでもその日はビール五缶ずつ空け、そのままベットとソファーに倒れ込んだ。

 その日、僕は久しぶりにあの夢を見た。ただいつもと違うのは、その日見た夢はいつも見ていた夢の続きのような内容だったのだ。病院の白いベットの上には、何本ものチューブに繋がれた・・・僕?が横たわっている。巻かれている包帯は赤く染まり、唯一、心電図の音だけが、僕がまだ生きていることを証明している。その周りでは、僕の母さんが泣き崩れ、父さんと兄貴は真っ赤な目をしている。その隣でも同じようにチューブに繋がれた少女がいる。・・・杏子?そう思ったところで目が覚めた。・・・今のは何だったんだ?しばらく呆然としていた僕は横になったまま足だけを伸ばして、ソファーから落ちて床に寝ている雅人を思いっきり蹴飛ばした。

「おい、雅人。雅人。」

「痛ってぇなぁ。何だよ。」

「お前が変なこと思い出させるから、また見ちまっただろ。」

「見たって何を?」

「夢だよ、夢。」

「知らねぇよ。」

そう言うと、雅人はゴロンと寝返りを打ち、3秒後にはいびきをかき始めた。