来たなっと僕は思った。雅人が急に泊まると言い出すときは、必ず何か話がある時だったからだ。

「どうって?」

「どうって?じゃねぇよ。いいかげん可哀想だよ。好きなら付き合えばいいし、その気が無いなら気を持たせるようなことするんじゃねぇよ。」

僕は冷蔵庫のマヨネーズを探しながら考えた。

「正直・・・さ、良く分かんないんだよな。別に大原のこと嫌いじゃないし、むしろ良い子だと思うよ。一緒にいて楽だしさ。」

「だったら。」

「でもさ、それだけなんだよ。なんつうか、それだけなんだよな。変な話、抱きたいとか、そんな風に思えないんだよ。」

大原のことは素直に良い子だと思うし、好きか嫌いかと聞かれたら間違いなく好きだと答えるだろう。けれど、どうしてもそれ以上の感情は持てない。それでも、普通付き合うのだろうか。大体僕には、みんながどのくらいの感情で付き合ったりするものなのか全然分からない。

「う~ん。」

雅人は腕を組んで考え込んでいる。僕はいたたまれなくなってベランダの窓を開けた。蒸し蒸しとした空気が部屋にどっと流れ込んでくる。

「にしてもさ、お前がそんなこと言うなんて珍しいな。」

僕は外を見たまま言った。雅人がこんなに女の事で口を出してくるのは、本当に珍しい事だった。

「そうかな。」

雅人は少し間を置いて切り出した。

「お前さぁ、なんで今日遅れたわけ?」

僕は動揺して雅人の方を向けなかった。

「だから寝坊して・・・。」

「本当は?」

刺すような雅人の声に、僕は両手を上げて降参した。

「参ったな。」

苦笑しながら窓を閉め、僕は杏子という女の子との出会いを一部始終話した。