嘘は言っていない。これも理由の一つではある――それは一部であり、大部分ではないが。


 一番の理由は、自分の中で朱都と距離を置きたいからだ。どうせ朱都は朔緋を餌としてしか見ていない、そんな中アヤトを想い辛くなるのは朔緋だ。


 ――一刻も早く、アヤトなど忘れるべきだ。朱都に何をされようと、朔緋が傷つかないように。


 逃げるように早足で前に進みながらも、思考は朱都からは逃げられない。朱都の策に見事に嵌ってしまったことが悔しい。そして、すべては策であったのだという事実を改めて感じ、そのことが悲しい。