歩きながら庭を見れば、目につくのはやはり彼岸花だ。というか、それしか咲いた花がない。強いて他に目立つといえば桜の大樹だが、季節ではないため花どころか葉すらつけていない。
春になれば、それはそれは美しい花が咲くだろう。もう何年も見ていない桜――この木がつける花を見たいと思う。だが、果たして見ることができるだろうか。
俯けば目に入る、左足首につけられた銀の輪。それは朔緋を檻に繋ぐための物だと思っていたが、それだけではなく、朔緋を鬼から護るための封印具だと朱都は言った。
何も知らなかった頃はただ朔緋を縛る忌々しい鎖でしかなかったが、今は違う。これがある限り、自分は朱都の傍にいられるのだ。
封印が解ければ、文字通り朱都は朔緋を喰らうだろう。それは十年先かもしれないし、明日かもしれない。その時がくるまで、これは朔緋と朱都とを繋ぐ唯一の楔だ。
いつ朽ちぬとも分からない楔――せめて、この桜が咲くまでは。