「なら、売ってくるわ。」

「ええ、行ってらっしゃい。」

俺は作った草鞋を売りに人通りまで歩いた。

人が通る場所のすみに腰をおろし、板を広げ、草鞋を並べた。

少し経つと幼子が金袋をちゃらちゃらと鳴らせながら歩いてきた。

「ひとつください。」

「はい。」

幼子用の草鞋を渡すと、「違う。おっかあの分。」

そう幼子が言ったので、俺は女用の草鞋を渡した。

幼子は俺に金を払うと、「ありがとう。」と言って走って行った。

少し離れた所でその幼子の母親らしき人がこちらに向かって頭を下げていた。

西日が射す頃には全て売れてしまった。

板をたたんで帰る用意をしていると、噂話が聞こえてきた。

「おい、知ってっか?草村の噂。」

「ああ。知ってる!!若い男女が行方知れずってやつだろ?」

「無事でいるといいんだけどなあ。」

「まったくだな。」

(何も言わずに出てきたからな。父上や母上、心配しているだろうな…。)

そんなことを考えながら帰った。