僕達は、二人で住むには広い、日本家屋で二人だけで住んでいたね。
庭には沢山の薔薇。
君は、赤い薔薇が大好きで、見ればいつも笑顔になって、そんな君の笑顔が大好きでした。
僕達は、そんな薔薇の前で写真を撮った。
君は、映写機の前で笑顔を向けた。
その笑顔を見て、僕も思わず微笑んだ。
あぁ、君が好きだ…――
――……愛してる
僕達が幸せな毎日を過ごしていた時、それを無惨に壊す手紙が一通、僕宛に届いた。
君は泣いた。
泣いてすがった。
「行かないで!」
でも無理だよ。
君がそう言っても、これは御国からの命令。
“出兵命令”
あぁ、とうとう僕の元にも来たか。
周りの男は既にもう居ない。
この辺で残って居たのは僕だけ。
喜ぶべきなのかな?
やっと御国の為に生きれると、喜ぶべきなのかな?
君の泣き顔を見たら、行きたいだなんて、喜ぶだなんて、
――……出来ないよ
僕は皆に見送られて、戦場へ向かう汽車に乗った。
君は泣きながら、バンザイをしていた。
今すぐ君に駆け寄って、抱き締めたい。
離さないように、ぎゅっと。
でも、そしたら僕は……
命をはれない。
僕は敬礼をして、君の元を去った。
ねぇ、僕が帰って来れなくても、あの薔薇を見て笑っていてほしい。
泣かないで、あの優しい笑顔を見せてほしい。
戦場はまさに地獄だった。
昨日まで、仲良く話していた奴達が、血塗れで隣に倒れている。
君と僕のように、愛し合った人が居ると言っていた。
お揃いだと言っていたペンダントを握り締めて、彼の心臓は止まっていた。
明日は、彼の位置に僕が居るかもしれない。
僕が君との写真を握り締めて、呼吸が止まるかもしれない。
死んで……しまうかもしれない。
会いたい。
死にたくない。
君を一人で置いていくだなんて、嫌だ。
恐い。
死ぬのが恐い。
僕は臆病者だ……――
敵が迫ってきていると言われた。
皆は銃を片手に、敵に向かってきた。
僕は……
銃を握り締めて動けなかった。
断末魔の声が響く。
敵に向かっていた者の声だ。
恐怖で体が震える。
足が鉛のように動かない。
銃声が響く……――
逃げなきゃ!
僕は恐怖に負けた。
進む先には死体の山。
見知った人もちらほら居た。
強くて厳しかった教官もその中に居た。
「ゔわ゙ぁぁぁぁぁあああああ゙!!!!」
果たして僕は、生きていて良い存在なのかな?
見開いたまま、痛みに苦しむ教官の目を閉じさせた。
安らかに……。
僕が死体の山から立ち上がった時だった。
――バンッ
聞き慣れてしまった銃声が近くで響いた。
胸に入れていた君と撮った写真。
穴が空いてしまった。
君の顔に、穴が空いてしまった。
背中から撃たれた僕の胸を貫通して、君の顔に……――
あれ?
君ってどんな顔だっけ……?
あれ?
君って誰……?
――……気が付くと、僕は古ぼけた病院の布団で寝ていた。