「どうって…お前、会いたかったんだろう。ずっと」







…っ!!




そりゃあ…そりゃあ会いたかったですよ!!






会いたくて会いたくて仕方がなかった…!!








でも会いたくなかった…!





会えなかった…!!







だって、私が会いたいのは、会いたいのは…!!










「お前はいつまで自分の殻に閉じこもってるつもりだ?」



「と、閉じこもってなんか…!!」



「自分の心に蓋をして、ずっと独りで生きることを長倉 知聡が望んでいるとでも思ってるのか?お前が知ってる知聡はそんな最低なやつだったのか!?」







違う!!



違う…!!




最低なんかじゃない!!





知聡は最低なやつじゃない!!






いつだって私を心配してくれて…!!





腕っ節は弱いけど…いつだって、いつだって誰よりも何よりも優しいやつだった…。







私を守ってくれてた…っ!


「だったら…。だからこそ、すみれちゃん。知聡に会ってやってほしいの。きっと知聡は待っていたはずだから…」







おばさん…っ。




そんな…知聡は…私のことなんて…っ。










「すみれちゃん。私たちもね、息子が…知聡が死んでから色々あった。つらかったし、悲しかった。何より苦しかった。けどね、乗り越えてきたんだ。私たちも。だからすみれちゃん。今度はすみれちゃんの番だよ」






知聡に会ってやってくれないか。











おじさん、おばさんが頭を下げて私に願う。













なんでよ。



どうして…。




なんで二人して私を責めないの…?






私は二人から大事な息子を奪ってしまったんだよ?







私がバカで何も気づかなかったから、何も気づけなかったから…。







知聡は…―!!


「それは私たちも同じだよ。自分の息子なのに何も気づいてやれなかった。そんな自分が憎くて、悔しくて堪らなかった…っ。
でも、だからっと言っていつまでも立ち止まってても…知聡の魂は報われないんじゃないかって…そう思ったんだよ…」








報われない…。




そう…なの?





私が…前に進むことで…あんたは報われるのかな…?











それから私は、課長に手をひかれ、墓地庭園の中へと足を踏み入れた。









一歩一歩、知聡に近づいていく。








そして前を行く、おじさんおばさんが足を止めた。












きれいな墓石に彫られた長倉家の文字。


…会いたくてたまらなかった。






だけども会いたくなかった。









告白の返事がわからないだとか色々と自分に理由をつけていたけど。











ホントのホントは…変わり果ててしまったあんたには…会いたくなかった。








だって、もう、ここにはいないのだと。




触れられないのだと。




言葉を交わすこともできないのだと。








そんな現実と向き合いたくなかったの…。










知聡、あんたは…私にとって…―。












「言いたいこと、あるんだろ?」



「……課…長…っ」



「もう我慢なんてするな」









我慢なんてするな。







その言葉が私の涙腺を決壊させた。


5年前も……。






ううん。








知聡の前では泣き顔なんて見せたことなかったね。








あんたを守るのは私だと思ってたから。






あんたの前ではいつも強がってた。





強いふりをしてた。











ねぇ、知聡。





私はホントは強くなんかない。







こんなに…。




こんなに弱くて泣き虫で臆病な人間なんだよ。


でもね、そんな私が、誰かの為にむちゃしたり戦ったりできたのはね。








あんたがいつもそばで私を心配してくれていたからなの。









あんただけがいつも私にむちゃするなって言ってくれてたよね。







私は鬱陶しがってたけど、本当はいつだって嬉しかったんだよ。








あんたがそばにいて心配して私の傷の手当てをしてくれたから。








私はいつだって、強くなれたんだ。









知聡、あんたは私の…心の支えだった。





安定剤だったんだ。










会いにくるのが遅くなってごめんね。






告白の返事…こんなに遅くなって、ごめんね。







あんたの痛みに気づいてやれなくて、ごめんね。









何回、何十回謝っても謝り足りないよ…。







本当にごめんなさい。












でも、だけど。




ずっと、私を守っていてくれて…本当に…ありがとう…――。


それから私は知聡の前で泣き続けた。





今までためてた分、すべて。






課長はずっと私の背中をさすっててくれた。











「すみれちゃん…。知聡に会いに来てくれて…本当にありがとう。知聡もきっと喜んでる。
…だからね、すみれちゃん。君はもう自分の為に生きなさい。生きていいんだ。自分を責めるのはこれで終わりにしよう。お互いに。
…君にはこんなに君を想ってくれる彼氏くんがいるんだから。知聡の分も幸せに生きなければ」







おじさん…。










「…また、ご飯食べに行っても…いいですか…?」



「おぉ!!ぜひ来なさい!!今度はゆっくり休みでも取ってね!竹中さんと二人で来なさい!!いつでも歓迎するから!!」








おじさん、おばさん…本当にごめんなさい。





そして、ありがとう…。


てゆーか…さっきからちょいちょい思ってたんだけど。






おじさんおばさん、いつの間に課長とそんなフレンドリーになってんすか!?










「彼氏と呼ばれたことに反抗しなくてもいいのかつるぺた」



「つるぺたじゃないし!!つーか絶対課長が確信犯でしょー!!」



「そうだな。じゃ改めて返事、聞かせてもらおうか。お前は俺のことどう想ってるのか。長倉 知聡と重ねてりだけなのか?それとも…」



「……それ…ここまで連れて来てくれて聞くことなんですか?」



「当たり前だろ」


…重ねてる…か。








確かにお互い初めはそうだったのかもしれない。










でも、とっくに気づいてたんですよ。







知聡と違うってこと。








あの、雨の日に気づいたんですから。






自分の気持ちに。









知聡とは違って、意地悪でこき使うし、自分勝手だし…。








でも、いつだって私を包み込んでくれた腕は暖かかった。






ぶっきらぼうな優しさで私を守ってくれた…。










そんな課長を…好きになってた自分がいた。