…んでもどうやって…?
はぁぁー。
俺、本当へたれだなぁ。
弟のこと言えないよな。
あいつはあいつでうまくやってるみたいだし。
とりあえず会社の前で突っ立っててもしょうがない。
オフィスに上がろう。
けれど。
オフィスに着いたものの、そこはもぬけの殻だった。
あれ?
確か今日、すみれちゃん、残業するって黒崎さんが言ってたのに…。
「いないわよすみれちゃんなら」
「うわぁ!!」
く、黒崎さん!?
いつからそこに!?
「情報屋黒崎さんを甘く見ちゃいけませーん」
情報屋って…。
「そ、それで黒崎さん、すみれちゃんは…?」
「あーさっき課長が誘拐して行ったわ」
ゆ、誘拐!?
それ犯罪じゃん!!
事件だよ黒崎さん!!
なんでとめなかったの!?
「止めるわけないじゃない。そんな楽しい場面」
楽しいって!!
「ままま、芦屋くん。今回は課長に一本取られちゃったってことよ。残念、だったわね。ぶっちゃけ相手が悪いっていうか」
…わかってるよそれは。
ぶっちゃけなくても最初からわかってたんだ。
俺に分が悪いってことくらい。
だけど…だけど…好きになっちゃったんだよ…。
「そうね。恋愛は自由だわ。…ま、一杯くらいは付き合ってもいいわよ。思いの丈くらい聞いてあげるわよ」
「うん…。ありがとう黒崎さん」
その後、一杯どころか3軒ハシゴするハメになってしまったけど。
黒崎さんに色々聞いてもらって叱咤激励されて、少しは心が軽くなった気がする。
ちなみに蛇足だけど、酒癖は俺も悪い方だと自覚してたけど、黒崎さんも相当なものだった。
今度飲む時は2軒目で猛ダッシュして帰ろう…。
「ちょちょちょっとー!!!課長!?どこ行くんですかー!?てゆーかこれ誘拐ですよー!!」
「うるさいつるぺた。黙って乗ってろ」
おいーっ!!
まんま犯罪者のセリフじゃんそれ!!
事の発端は1時間前。
私はせっせと残業にいそしんでいたわけだが、そこに急に課長が現れ。
「出かけるぞ。来い」
と、いきなり有無を言わさず車に乗せられ今に至る。
これ、完璧犯罪ですけど課長!!
パソコンも電気も戸締まりもしないまま会社空けて来ちゃったじゃないですか!!
あんたがあんだけ注意してたのに!!
どうすんですか!!
どこ行くんですか課長ー!!
などと言う私の文句は一切無視され、課長は運転に集中するばかり。
もう!!
何なのよ一体!!
いきなりこんな風に連れ出してさ!!
着いたら絶対通報してやんだからー!!
「……―ぃ。おい!!」
「ふぁい!?」
体を揺らされ飛び起きた私。
あれ?
私、いつ寝たんだっけ?
てか今何時…!?
「着いたぞ」
へ!?
着いたって?
課長!?
私を起こしてさっさと外に出て行く課長。
もう何なのさっ!!
とりあえず携帯を取り出し時刻を確認。
……て、朝の4時!?
はぁああ!?
会社を出たのが昨日の夜8時くらいだから…。
えええー!?
一体ここどこっすか課長!?
「おい、早く降りろ」
「わ、わかりましたよ!!」
しぶしぶ車から降りる。
辺りはまだ薄暗くて、はっきりとはよく見えなかったけど…公園…かな?
なんか広いし。
周り何もないし。
「こんな朝早くに申し訳ございません」
「いえいえいいのよ。わざわざ遠いところから…。疲れたでしょう?」
「いえ。わがままを言ったのは俺の方ですから」
「わがままだなんてとんでもない。息子もさぞかし喜んでいるだろうよ」
課長…誰かと、話してる?
「あらまぁすみれちゃん!!こんなに素敵な女性になって…!!」
「引っ越してから5年も経つんだもんなぁ」
薄暗い中でも、その人たちが誰なのか、声だけではっきりわかる。
だって、17年も、隣で一緒に暮らしてきたんだから…。
課長と話していた人物、それは…―。
「知聡の…お母さんに…お父さん…―!?」
え…!?
一体、なんでどうしてここに…!?
…て、まさか、ここは…!?
「本当に…来てくれて嬉しいよすみれちゃん。…知聡もきっと会いたがってただろうし」
「えぇ。こんな素敵な彼氏さんを持って…幸せなすみれちゃんを、知聡はずっと見たかったでしょうから」
は!?
彼氏!?
いや、てゆーか課長…!?
なんで…なんで私をこんなとこに連れてきて…!?
私…っ!!
「い、行かない!!私!!私は行けない!!」
「すみれ…」
一体、一体何考えてるんですか課長!?
こんなとこに連れてきて一体どういうつもりなんですか!?