「そう。ゲーム。うんざりするじゃない。何にもない日常ってさ。周りにへこへこしながら愛想振りまいてると特にさ。だから思いついたんだよね。こーゆーゲームを。町中を巻き込んでさ。スリルだよスリル。俺がほしかったのはね」
「そんな…!!そんなもんの為に知聡を…!!」
私は我慢ならなくて拳を振り上げた。
「やめなよ。俺を殴ったら長倉くんの努力が全て水の泡になるんだよ?」
その言葉に寸でで拳を止めた。
「どういう…意味…!?」
「簡単なことさ。俺には〝力〟があるってこと。俺の父は警視総監だしね。母はコンピューター会社の幹部。君なんてその気になれば一ひねりで潰せるってことだよ。あのボロい道場もね」
「そうやって…!!そうやって知聡を脅してきたのねあんたは!!」
「単純だったからね。彼は君の名前を出すと一発だった」
「…私の…名前!?」
「やれやれ。ホントに鈍いんだね君は。
普通、たかが幼なじみの為に心身を犠牲にしてまで守ろうとするヤツがどこにいる?
長倉くんにとって君は幼なじみなんかじゃない。それ以上だったんだよ。
彼は守りたかったんだよ。自分の好きな子をね。
だから君を守る為なら何でもやったんだ」
頭が…追いつかない。
知聡は私を守ろうとしてた?
好きな子って…。
幼なじみ以上って…っ?!
知聡があんなに追い詰められるまでこいつらのゲームに付き合わされていたのは、全部、全部…私を守る為…!?
―「僕は君が好きだ」―
あれは…。
あの言葉は…。
幼なじみとして私を慕ってくれていたんじゃなくて。
知聡は。
知聡は本気で、本当に私のことを…―!?
「けど君は何も気づいてなかった。長倉くんから好きだとかって言われてもどうせ聞き流してたんだろう?
〝何言ってんだ〟っとかってね。かわいそうだね本当に。
彼はあんなに君のことを想っていたのに。君は彼の想いを踏みにじることしかしてなかったんだね」
言い返すことなんて…できなかった。
知聡を傷つけて、死に追いやったこいつらにそんなこと言われる筋合いなんてなかったけど。
でも、だけど。
知聡が死んだのは、私のせいでもあるんだってことに気づかされたから。
私は、知聡のこと知っているふりをして全然、全くわかっちゃいなかった。
いつだって知聡を傷つけていたのは。
傷つけて…いたのは…。
―――私、だったんだ。
それからあいつらとどうなったのか、全然覚えてなくて、気がついたら病室の天井が目に入った。
「…―私……」
どうしたんだっけ?
あれから…。
あいつらは…。
「ようやくお目覚めね、命清」
「…しゅ、守風ちゃん…?」
隣で私を看病していたのは、知聡と同じ学校に通ってる、守風ちゃんだった。
「2日も眠ってたのよあんた。全く…後始末する側の身にもなりなさいよね」
後始末…?
「何よ?あんた覚えてないの?あんた一人であいつら倒したのよ?八王子とか言うやつは全治3週間だって。…ったく、撫子から聞いて駆けつけてみれば、あんた暴れまくってたしさ。警察に言い訳すんのだって苦労したんだから」
そっか…。
私、あいつらのこと…。
「苦労かけてごめんね守風ちゃん」
「全くよ。……でもま、これでかつあげ事件は無事解決したからチャラにしてあげるわ」
無事解決…。
違う…。
違うよ守風ちゃん。
「解決なんて…私、こんなことで解決なんて…。知聡が…っ。私、知聡のこと…!!」
助けてあげられなかった。
守ってあげられなかった。
知聡はあんなにも〝痛み〟を抱えていたのに。
知聡は私のこと、いつでも守ってくれたのに。
私を想ってくれたのに。
私は何一つ気づかなくて。
知聡を傷つけた。
知聡の想いを踏みにじった。
私が、知聡を…―!!
「殺したようなもんじゃない…!!」
どうして私は。
なんで…。
どうして失ってからじゃないと気づかないんだろう。
なんで誰かに教えてもらわなくちゃ気づかないんだろう。
バカだ。
最低最悪だ私は…っ!!
強くなっても、力があっても、何も、大切なものを何も守れないんじゃあ…意味がないじゃない!!
私が嘆くその言葉を守風ちゃんは何も言わずにただ聞いていてくれて…。
そしてある曲を歌ってくれた。
慰めなのか、私を責めてるんだか、その時は分からなかったけれど。
その歌は、傷ついた体に心に深く染み込んだ。
一週間入院して、家に帰った私はじじいから長倉家が引っ越したと聞いた。
知聡も連れて…。
前々から転勤が決まっていたそうだ。
けど知聡は私にそのことを告げることはなかった。
あの時、すき焼きに誘ったのはお別れパーティーだったんじゃないかと事実を知って思った。
「すみれ…お前、本当に…」
「うん。私、決めたんだ。これからは勉強にでも精を出すとするよ。…部活も辞める。道場もね。私は、剣道辞めるよ」
私の強さは、何も守れなかったから。
ただ傷つけてただけだから。
「ま、私がいなくても将来有望なソラくんとか小梅ちゃんがいるし。後継者には困らないでしょ」
「そういう問題ではないわっ。それにあやつらは……」
「…?何よ?」
「何でもないわい。これ以上今は何も言わんが…。じゃがわしはやっぱり今回の件でお前が剣を置く理由はないと思うんじゃがな」
「でももう決めたことだから」
「まぁ聞けい。すみれ。この世に全てのものを守れる強さなど存在せんのじゃ。人は弱い。弱いからこそ強くなれる」
そんな正論、言われなくったってわかってるわよ。
実感したもの。
自分の弱さを。
だからこそ、私はもう二度と力は求めない。
大切なものすら守れない力を求めたってどうしようもないじゃない。