「俺だ。金は受け取った。撤収していいぞ」









意味がわからない端的な会話だった。







けど、通話中になっていた私の携帯から有坂くんの言葉を聴いてその意味を理解した。










『姐さん、坂本さんの家から誰か出てきました。2人…ですね…何なんだあいつら…?』







!!



まさかこいつらすでに坂本さんの家に入り込んでたってこと!?










「有坂くん!!そいつら逃がさないで!!かつあげ連中の仲間だ!!」






―て、つい大声で話しちゃった!


「!!なんだこいつ!?いつからそこに!?」






ヤツらに見つかったと同時に私は手に持っていた竹刀を振り上げた。






武器を取り出すヒマなど与えない。




携帯を取り出すヒマなど与えない。





3人一気に叩く!!









近づきながら体を回転させ竹刀を振るう。








「命清流、其の五・闇夜払い!!!」





バシシィッ!!!







回転して威力の増した竹刀は、ピンポイントに3人の腕や体に直撃した。









ついでに勢い余って窓ガラス何枚か割っちゃったけど…。





まぁいいか。




ここ廃病院だし。


痛みにうずくまる3人から坂本さんを安全な場所へと逃がす。





もちろんそのスキに3人の携帯と武器を分捕るのも忘れない。










「さてと…。洗いざらい話してもらうわよー。このかつあげ事件のことをね!仲間は何人?誰の指示?どうやって個人情報を調べ上げたの?あんたらの目的は?」



「し、知らねえよ…!」








知らない!?




んなわけないでしょ!?





正直にしゃべった方が身のためよ?





私、あんま気長くないからさ。











「ほ、ホントに…知らねえんだよ…っ。俺らはただのバイトだからな!」








バ、バイト?



かつあげが!?


「まぁあたお前かぁー!!命清んとこのバカ小娘!!」







あーもーうーるーさーいー!!




最っ悪!!




なんで都合よくこのジジーが通りかかるわけ!?













あの後。



かつあげ連中の事情を聞こうとしたそのタイミングでこのジジー…こと、少年係の刑事・織部(オリベ)刑事が割り込んできた。









「お前ら何しとんじゃー!!」






と怒鳴られ無理やり警察署まで連れてこられた。







ちなみに織部刑事とうちのジジーとあと一人……忘れた…は親友同士らしい。



よく知らないけど。




ぶっちゃけジジーたちの交友関係なんて知りたくないし。










はぁ。



ホント最悪だよ。




よりによってこのジジーに見つかるとはね。







まぁでも情報はそれなりに手に入ったからよしとするか。


かつあげ連中の話によると。




自分たちはただ単に金で雇われたらしい。









「いきなり知らねえアドレスからメールが来てさ。雀蜂通信ってタイトルで。いいバイトがあるんだとか何とか書いてあって…。金受け取って運ぶだけで3万もらえるっていうから試しに返信してみたんだ」








そしたらかつあげ手順が書いたメールが来たらしい。




坂本さんの家の合い鍵は駅前のコインロッカーに行けという指示に従い、その番号のロッカーを開けたら入っていたらしい。









「そんで全部終わったらまたメールを送れって指示されてたんだ…」








なるほどね。




全部終了したのを確認して、2万円と引き換えに3万円を渡すと。









何ともまぁ変な話よね。





2万円手に入れる為に今回雇ったのは5人だから…15万円かけてるのよ?





損する一方じゃないの。


「てゆうか何より気に食わないのは、指示するだけして自分の手は汚さないってとこよね!!」








つかなんなのよ雀蜂通信って。




ふざけた名前よね。










「さしずめ雇われた連中は働き蜂ってとこなんじゃろうな」



「…織部サン。何のんきにんなこと言ってんですか。警察はまだ何も犯人の手がかりつかんでないんですか!?」








どんだけ被害拡大させるつもりなんですか警察は。










「ふん。あったとしても誰がお主のようなじゃじゃ馬娘に話すかい」



「そーですか!!じゃあ私は自分の手で犯人を探します!!」







ふんだ!!




初めっから警察なんかアテにしてないしね!!


「…待てい」



「何すか!?」



「仮に犯人を見つけて…お主はどうするつもりじゃ?」







は?



何よ急に。




そんなん決まってるじゃない。









「まずお金を返してもらって、被害者全員に謝罪してもらう!!そんで私が一発殴る!!」



「それはどんなヤツでもか?」



「当たり前でしょ。どんなヤツであれ、どんな事情であれ、人を傷つけたことに変わりはないんだから」



「そうか。…じゃあ気をつけて帰るんじゃぞ。尊によろしく言っといてくれ」








誰が言うか。



あんたと会ったって話ただけで竹刀が2、3本くらい飛んでくるんだから。


それはともかくとして。





手がかりは掴んだ。







雀蜂通信に雇われた働き蜂。







とりあえず、明日会長たちにも報告してみるか。











てゆーかすっかり遅くなっちゃったなー。




ジジー飯作ってるかな…。






いや、それは有り得ないか。








早く腹ごしらえがしたくて家まで小走りで駆けていた途中、見知れた背中が目に入った。












「知聡ー?あんたこんな時間に何してんのー!?」



「あ…。すーちゃん」








私の声に気づいて知聡は顔を向けた。


長倉 知聡(ナガクラ チサト)。




私の隣の家に住んでる。






言わば幼なじみってやつ。







うちの道場にも通ってて昔は四六時中一緒にいたもんだけど。






中学からは学校が離れたんで少し会う機会が少なくなった。







とは言っても隣同士だし顔はあわせてるんだけどさ。








昔っから泣き虫でいっつも私の後ろに引っ付いていたもんよ。







まぁ、さしずめカワイい弟分ってとこかな。