「話よりも芦屋くんとやら。まずは傷の手当ての方が先でしょ。今、救急車呼んだから…」



「あ、いえ。俺ん家、すぐそこなんで。大丈夫です。弟がしょっちゅうこんな感じになって帰ってくるんで傷薬はたくさんあるんですよ」






いや、それ自慢することじゃなくない?




弟さん大丈夫なのそれ。










「それじゃあすみれちゃん。また明日」






そう言って芦屋くんはネコを抱えて帰って行った。


「…イイ奴じゃん。あれがこの前電話で言ってた芦屋くん?」



「うん。そだよ…」









ホント、イイ奴すぎるよ芦屋くん。





こんな醜い私を見て好きって言ってくれる奴なんて…。






なんで私なんか好きになっちゃったのかな…。





私なんかより芦屋くんにお似合いの人なんていっぱい、いっぱいいるのに…。







こんな…私みたいに…醜くて…汚い奴よりもっとキレイな人が…いっぱいいるのに…っ。


「命清…」







ぐぉるるるる。











「…………」



「…この辺、ライオンでも飼ってるやついるのかしら」








止めてー!!




わかってるクセにんなこと言うの止めてー!!







あーそうですよ!!



私のお腹の音ですよ!!




超腹減ってるんですよ!!



暴れたし!!









「守風ちゃん!!尻拭いするならついでに!私にご飯を!食材を恵んで下さいまし!!」



「はぁ!?何でよ!!あたしがニートだって知ってんでしょうが!!」



「だからお金じゃなくて食材って言ったじゃん!!」



「一緒だそんなもん!!」









泣いてすがったと言うのに。






守風ちゃんに足蹴されて。




私は追い返されてしまった…。







ヒドいよ守風ちゃん!!



鬼だよ!!


翌日。




会社に出社したら、予想通り、芦屋くんが質問責めにあっていた…。






あんだけの傷だもんね。



どう頑張ったって隠せるわけないし。






けど芦屋くん、ごまかすのは得意のようで、昼休みに入るころには騒ぎは収まっていた。





芦屋くんのことだから私のことは一切話さなかったんだろうな…。








ホント、いい人すぎてもったいないよ…。








あーもー!!




芦屋くんったらー!!




何で私なんか好きなのさー!!




私のどこに惚れる要素があったわけー!!





私なんか早く忘れてステキな人見つけてほしいのにー!!




いいんだよー!!




もっと好きになったとか言わなくてもー!!





バカバカバカバカー!!


「おい。お前はどこの漫画のキャラだよ。昼休みに公園の木に頭打ちつけてる女なんかどこにいるんだ?」






ここにいるじゃないですか。





てか課長、いつもいきなりすぎなんですけど。




何で真っ昼間にこんな公園来てんですか。




最近はオフィスにこもりっきりなのに。








「気分転換だ。気分転換。お前の方こそこんなとこで何やってんだよ」



「修行ですよ修行」



「どんな修行だ。てかお前、剣術はやめたんじゃなかったのか?」





それとは違う修行です!!



煩悩を打ち消す修行をしてるんです!!





強いて言うなら食欲を打ち消す修行。







「そうか…。その修行は全く成果が出てないようだがな」






ぐぉるるるる~。








ううううるさーい!!!



課長に一日米一合で暮らす生活が分かるかぁー!!











「ったく…。しょうがない奴だな」





え?


「ぷはー!!生き返ったー!!」






課長が連れてきてくれたのは、会社の近くにあるラーメン屋さん。





久々に腹6分目くらいまで食べました。









もちろん、課長は、「お前の腹に付き合ってたら一日で破産する」といつも通り、ジャンボラーメン30分で食べ尽くしたらタダというのしかおごってくれなかったけど。





そんなん空腹だった私は3分で食べきりおかわりしちゃいましたが…。








あぁ…。



また店のブラックリストに載っちゃうんだろうなー。





こうして行ける店がどんどん減ってゆく…っ。










でもま、いっか。



今は食べれたし。



満足満足っ。


「…お前、ホント食ってるときは幸せそうな顔するよな」



「えー?だって楽しいじゃないですかー。食事って!」



「そうか。…それで?こないだの返事は?」






ぶはぁっ!!!





ななな!!




急に何ですか!?





なんで今の会話でそこに持っていくんですか!?









「こちとらずっと待ってんだ。急にも何もないだろ。さっさと返事を言え」







ムカー!!




なんですかその命令形!!


「課長こそ由香さんとのことはどうなってるんですか」



「あぁ?見りゃわかるだろ。毎日由香んとこ言って誤解解いてるよ」



「ふーん。でも全然成果がないようですね」



「うるせえ。これは俺の問題だ。つか今由香のことはどうでもいいだろ。お前の話だ。お前の気持ちを聞いてんだよ」






…それは…そうですケド。














……私の気持ち…か…。






課長にもちゃんと、話さなきゃ。
















「……私…課長の気持ちには……応えること…できない…です」










どうしてだろう…。





芦屋くんに言った時はどうもしなかったのに…。









想いを告げた口とは裏腹に、胸が痛くなる。


「お前は…芦屋のことが好きなのか?」



「違いますよ…。芦屋くんにも言ったんですけど…。私には…幼なじみがいたんです」



「幼なじみ?」



「そうです。私、課長と同じなんですよ。その幼なじみから告白されて…。私はまだその返事をしてないんです。その、幼なじみ…課長に似てるんですよ。…ね。課長と由香さんの関係と同じでしょう?」



「で?その幼なじみが俺の気持ちに応えられない原因か?」








…そうですよ。



私は、自分の気持ちに気づくまでは、知聡にちゃんと返事をするまでは。





誰とも恋をしない。




好きにならないって決めたから。