少女は少し困った様に腕を組んだ。

「私が話してるのに上の空は失礼よ。何を考えていたの??」

俺は少女に君と会話をしている時は人間でいられる事を嬉しく思っていると伝えると満足したように頷いた。

「ところでお兄ちゃん、お腹は空いてないの??キャンディーならあるけど」

少女は白くて細い腕をぐっと伸ばし手を広げている。その手には赤くて丸いキャンディーが一粒あった。

実際は、ほぼ無臭に近いはずだが甘ったるい匂いが全身に駆け巡った。

それは、こんな姿になって4日間何も口にしてないせいで錯覚を産んだのだろう。

しかし、俺は少女の申し出を断った。俺は知っているんだ、そのキャンディーを口に含むと体が拒否反応を起こしてしまい、嘔吐してしまうことを………。

頭の中では欲しがっているが体は拒否している。どれも俺の一部のはずなんだが今は完全に分離している。
そんなんだ、この体は俺の物では無くなったのだ。

そう、俺は………〝壁の一部〟なんだ。

少女はキャンディーを黄色いショルダーバッグに戻した。

「君はどうやってこの廃墟で暮らしているんだ??食料とか最低限の必要な物はどうやって手に入れているんだ??」

俺の突然の質問に少女は顔色を変えず涼しげに答えた。

「分からないの、ただ1ヶ月に一回のペースで食料が大量に送られてくるのよ、誰が送ってくるのかも分からないし、宛名も書いて無いのよ」

食料を送ってくる人は恐らく少女を知っているはずだ。

「君はこの廃墟に来る前は何処にいたんだ??」

少女は表情を曇らせ黙りこくった。

しばらくの沈黙が続き、少女は息を吐くように小さい声で呟いた。

「キオクガナイノ」

それだけを呟くと少女は手術室から出ていった。

俺が手術室の壁の一部になって5日目が経過した。