少女と俺は少しの間、沈黙と暗闇を散歩していた。
そんな時、少女の方から沈黙という名の散歩を止めた。

「私が悪い人たちを懲らしめてあげる。大丈夫よ、私に任せて」

少女は俺を見上げ、笑った。その笑顔の中には『殺気』と『喜び』が反発することなく共存している様だった。

「そんな危険な事をするよりも助けを呼んで来て欲しいんだ。頼めるかな??」

少女を見下ろしながら妥当な意見を放り投げると少女は表情を変えた。

「私は………ここから出ることが出来ないの」

それは何故だと問い掛けたけど少女は下を向いたままで口を開こうとはしなかった。

少女は泣いているのか、笑いを我慢しているのか分からないが肩を震わせていた。

そして、少女は笑顔を見せて「またね」と俺に告げて手術室を後にした。

あの少女は一体何処に帰るというのだろうか。
この廃墟から出れないのであればこの廃墟の何処かに住みかを作っているのだろけど、本当か嘘かは俺には分からない。

なんせ、こんな不敏で陳腐な姿だからな。

こんな姿になってから何も口にしていない。水ですら口にしていない状況だ。
しかし、そんな事はどうでも良いのだ。

俺が不安に感じているのは埋められた体の調子の方だ。体の機能が着々と停止し始めているらしいのだ。

それは、つまり〝死〟に近づいているということなのだ。

思考の中で孤独と恐怖が死の扉を開けようと話し合いをしているようだ。

そんな重力に俺は耐えられるのだろうか。

そんな事を考えていたら涙が溢れたが、自分の涙も拭う事も出来ないのだ。

涙が通った頬に風が当たった。
冷たくて凍えそうだった。