幸せとは、自分が満たされる時に感じるものだろうと思う。
いわゆる、自己満足というカテゴリーに当てはまる。それに結び付けるための着火物は人それぞれ違う。

俺が幸せと感じるのは今だと思う、奇妙で現実味の無い現実が愛しく思えて仕方がない。
一般的に考えると悪夢だと思うが俺は違う。

心地よくて穏やかな時間が流れる今が愛しい。
俺の幸せの着火物は少女だと確信している。
俺は少女に依存しているのだろう。

少女の声が聞こえる、大人の女性より少し無邪気で子供より少し大人な容姿が俺の目の前で行ったり来たりしている。

少女は愛犬のキャリーと戯れている。
キャリーも特殊な容姿をしているが今はとても愛着があり、嫌いではなくなった。

理由は分からないが変な違和感が身体を包んでいる。
何が大切なことがあったような………思い出せない。何気なく少女を見ると少女も俺を見ていることに気づいた。

しかし、少女は俺と目が合うと、すぐにキャリーの方に顔を向けた。
一瞬だが少女は広い水面にぽつりと一隻の舟が闇に漂っているような寂しい表情をしていた。

少女はショルダーバックから飴玉を取り出す時にぽろりと落とした。
地面と摩擦して高音質の音が三回鳴った。

昔ながらの飴玉の缶だ、蓋を開ける度にぽっこんと可愛らしい音がする。
俺が幼い頃によく好んで駄菓子屋で買っては夜な夜な布団に潜って食べていたものだ。

しかし、昔の記憶は曖昧なものだ、行動は覚えていても場面の映像は思い出せない。

実に曖昧だ。

黄色い飴玉が宙に浮かび少女の口の中に懐かしさと一緒に落下した。