「こんばんは」 「……こんばんは。綺麗な歌ね」 綺麗な声で、少女は言いました。 「歌は好き?」 「ええ。歌うのも聴くのも好き。……あなたは?」 「そうだね、歌うのは好きだよ。聴くのは……どうだろうね。そんな機会ないから、分からないな」 彼のために歌う者はいません。そして、彼のために歌を聴く者も。――誰も、聴くのは最初だけです。その姿を見てからは、歌など届きはしないのです。