──離れたい。
けれど、壁につかれた一ノ瀬の両腕に阻まれて、それは叶わない。
「南条さんの話の中の先輩めっちゃ可愛いのに、実際は可愛くないですよね」
普段より少し低めの声色が、妙に甘くて。
その声と共に掛かる吐息が、妙に熱くて。
不覚にも、心臓の脈打つ速さが増す、自分がいて。
「安井先輩の可愛いところ、俺も見たいです」
安井の耳元で口元に弧を描くと、一ノ瀬はその耳を己の舌でねっとりと舐め上げた。
「あ……ッ、や、めろ……!気持ち悪……ッ」
「気持ち悪い……?気持ち良いの間違いじゃないんですか?顔、真っ赤ですよ?」
安井より低かった筈の、一ノ瀬の身長。
なのに、一直線にぶつかる視線。
年下の一ノ瀬は、余裕そうな表情をしていて。
その一ノ瀬よりも、余裕の無い自分が恥ずかしくて。
一ノ瀬の目を、見ていられなくなった。