「安井先輩、南条さんのこと、大好きなんですね」

「好きじゃなかったら、付き合わねぇよ」

「ですよねー。じゃあ、その南条さんにちょっかいを出す、俺のことはどうですか?」


一ノ瀬の声と共に、一ノ瀬の足音も響く。

一ノ瀬が喋る度、安井との距離が詰められていく。


「……俺のこと、なめてんの?」

「なめてませんよ」


手を伸ばせば、相手に触れられる距離。


「今の俺の態度とか見て、わかんねぇ?」

「近すぎて、見えませんし、わかりません」


声を発すれば、吐息が相手に掛かる距離。


「俺、知りたいんです。安井先輩の気持ちを、安井先輩の声で聞きたいんです」

「……っ」


眉間の皺が一層深くなり、安井の表情が別の意味で険しくなる。