──陽が沈み、辺りが暗く染まった放課後。
校舎の部室棟に立ち並ぶ数ある部室の中で唯一、灯りのついたサッカー部の部室に、コンコン、と扉を叩く音が響いた。
「一ノ瀬、いるんだろ?入るぞ」
「……安井先輩」
中からの返事を待たずに部室にずかずかと入って来たのは、この夏にサッカー部を引退した、三年生の安井(ヤスイ)。
そんな安井を見遣り、笑みを浮かべたのは、サッカー部の新キャプテン、二年生の一ノ瀬(イチノセ)。
一ノ瀬の浮かべるその笑みはまるで、安井がここに来るのをわかっていて、あたかもそれを待ち侘びていたかのよう。
しかしそんな一ノ瀬とは対照的に、安井の方は何やらいぶかしげである。
部室にはこの二人の他に、誰もいない。
二人だけの空間に流れる、妙な沈黙。
先に沈黙を破ったのは、一ノ瀬だった。