「ああ、また風が吹いたんだわ」
昨日まで一面緑で覆われていたはずの山を見て、母が呟いた。
今その山は、再び冬に戻ってしまったかのように赤茶けている。
「これじゃあ作物が育たないじゃないの」
母はため息をついて、すぐ後ろで枯れ葉をいじくる僕を振り返った。
「ユーク」
名前を呼ばれ、僕は立ち上がる。
「何をしているの。早く、また畑を耕すのよ」
言うと、母がしゃがんで畑の枯れ草をむしる。
僕は家の裏手の倉庫から、使い古された鉄のクワを引っ張り出して、畑に降り下ろした。
がつんと、石に刃が当たる。黙ってその石を拾い、後ろに放った。

赤い風。やがて全ての生命を滅ぼすであろう、死の風。
世界の終末を意味するその風は、だんだんと人間を蝕みつつある。
人々はただ怯え、姿も知らぬ神に祈る。
僕は自分自身に祈った。
そして、待った。
赤い風が本来の力を取り戻すなを、ただ待った。