「ソウル、昨日雪が降ったんだって」

あ、そうみたいだね。

そう言おうとして口をつぐんだ。彼女は、私に恋人がいるのを知らない。彼はソウルにいて、昨日メールをくれたばかりだった。

「もう降ったの?早いね」
「うん。東京はまだ降らないね」
「降ることのが少ないかな〜」
「そうなんだ。ソウルよりずっと南だからかな」
彼女は、故郷を懐かしむように遠くをみつめながら言った。
彼女の故郷に彼がいる。
そう思っただけで胸が痛んだ。


私が彼と付き合いだしたのは、半年前からだ。
切れ長の目、やわらかそうな髪、すっと通った鼻筋、温かそうな頬、ふっくらとした唇。
何も見なくても、彼の整った顔立ちを思い描くこてができる。
残念なことは、彼の声を知らないことと、彼には会ったこともないということだった。


会ったこともないのに「付き合っている」なんて言えるのか。
そんなこと、私だって重々承知だ。
でも、動き出してしまったものは止められず、ただ重力に従って加速していくだけなのだ。
恋のときめきが数年ぶりならなおさら。
錆び付いていた感覚が甦ってくると、今までの生活が嘘だったかのように鮮やかになった。

これが恋の力なんだ。
そう思い知った。


彼女は、まだ遠い空をみつめていた。彼女がいなかったら、私はまだ色あせた世界に取り残されていたと思う。

私は、彼女と仲良くなるために韓国語を始めたのだから。