愛してるの言葉だけで。




「圭兄は姉貴のことを忘れないで生きればいいんだよ!姉貴の死を後悔するんじゃなくて、姉貴の死を克てとして生きて行けばいい!」



洋子を忘れずに…


洋子の死を後悔するんじゃなくて、

洋子の死を克てにして生きる…?



優斗はたいしたやつだ。


俺が欲しかった答えを言いやがった。



俺は人を殴って痛んだ拳を見た。


俺はもう、この拳を人を傷つけるために使わねぇ。

大切な人を守るために、この拳を使う。




俺は傷ついた拳を優人に向けた。



「優斗…サンキューな。お前のおかげで目が覚めた…俺は、洋子のために生きる」


「…うん!」



そう痛んだ拳に誓った春休み。


俺は洋子の分も生きる。


気合いたっぷりで向かった高校に、まさか洋子にそっくりなやつがいるとは思わなかった。



だから、俺は授業をサボりがちになった。


横を見れば、そこに洋子がいるんだから…


過去の記憶がフラッシュバックするんだ。


だから、俺は洋子にそっくりな坂井を自分なりに避けていた。




──────
─────────


気づけば俺は洋子のそっくりさんに全てを話していた。


…本当にそっくだ。


ほら、そうやって人の話を聞いただけで感動し涙を流すところとか。



「俺は洋子とのことがあって人と関わることが怖いんだ…」



どうしてだろ…

坂井には包み隠さずに全て話せる。

やっぱり洋子に似てるから?



「大丈夫だよ。きっと大丈夫…。みんな、洋子さんみたいにいなくならないよ?大丈夫、大丈夫…」



不思議だ。

こいつが大丈夫だと言うと、本当に大丈夫のような気がする。


──ドキッ…


何を思ったか、坂井が俺の手を握り、


「少しずつ頑張ろう?」


と言った。



少しずつか……

大丈夫か?

いや、きっと大丈夫なんだよ。



少しずつ前に進めば。

この手を信じていれば……



洋子…

見ててくれよ…



俺、がんばるから。




第四章:仲間と幸せな時間




私に仲間をくれたのは

あなた……


幸せな時間をくれるのも

あなた……






私は最近、新しく友達ができました。


新井くん、聖也くん…


それから、斎藤未央ちゃんという私の前の席の子。


未央ちゃんが「夏希ちゃん、友達になろうっ?」と言ってきたことが始まり。


それはそれは、もう…嬉しかった。


言葉にならないぐらい。



そして、あれから新井くんは合唱コンクールの練習にもちゃんと参加していて、聖也くん達と仲良くなったみたいだった。



そんな新井くんを見て私はホッとしたような、なんか嬉しい気持ちになった。



「ちゃんと救えたんだな!」


「みたいだね…」



私は机に置いた日記帳にペンを滑らせながら幸信に答えた。


幸信が選んでくれた日記帳…


"あの日"からちゃんと毎日欠かさず書いてるんだよ。



「なになに…」


「あっ!ちょっと見ないでよ」



幸信は「ちょっとぐらいいいじゃん」と言ってすねてたけど、絶対に幸信だけには見せない。



だって…毎日毎日、絶対に一回は幸信の名前を書いてるんだもん。



そんなの…

恥ずかしいに決まってるじゃん。






私は日記を書き終えて、背伸びをしてイスごとクルリと後ろを向くと幸信が私のベッドで寝てた。


へぇ~、幽霊でも寝るんだ。


私は、興味がわいてきたので静かに眠る幸信に近づいた。


寝顔、可愛い…


私は、ベッドに肘をついて幸信の寝顔をじっと見つめた。


やっぱり、幸信ってかっこいいよね…


…だんだん速く加速していく鼓動。

…ドキドキしてるのがわかる。



なんか……変なの。


私、幸信のことが……



「人の寝顔をガン見しないで下さい」


「…自意識過剰」


「は?」



そうやってつまらない言い合いが始まるのはいつもと同じ。


私は、その"つまらない言い合い"で小さな喜びを感じていた。




ねぇ…

幸信は知ってる?

私が何度「死んでなければ」

と思ったか、を……







「…うっそ!?」



私は驚きのあまり、自分でもびっくりするくらい大きな声を出してしまった。


手のひらを口に当て、周りを見渡した。



「夏希ちゃん声が大きい…」



そう人差し指を口の前で立てながら言ったのは、聖也くんだった。


だって…

聖也くんが悪いんじゃん。



──俺、リズム感全然ないんだ…



なんて言い出すから…


なら、どうして指揮者なんかに立候補したんだ…


と、聖也くんに心の中でツッコミを入れて私はため息をもらした。



「…特訓する?」


「うん!するする!」



聖也くんは大きく相づちをうった。


そして、みんなには秘密で聖也くんの指揮の特訓が始まったのだった。


聖也くんは変にプライドが高くて、みんなにリズム感がないことを知られたくないらしい。



まあ、分からないこともないけど…







そして、昼休みになった。


聖也くんを特訓することになっている私は、お弁当を持って音楽室に行こうとした。


その時…



「夏希ちゃん、お弁当一緒に食べよっ」


「…未央ちゃん。ごめん、ちょっと約束があって行かないといけないところが…ほんとごめんね!?」



お昼を誘ってくれた未央ちゃんに背を向けて急いで教室を出た。


絶対、未央ちゃん変に思ったよね!?


もう、聖也くんのせいだからね!


せっかく誘ってくれたのに…
ほんと、ごめんね!未央ちゃん!!



「お前は本当にお人好しすぎ」



もちろん、この声は幸信の声。

その声に私は返事をしない…できない。


いいかげん嫌になってくる……


幸信を無視しているみたいで、罪悪感が襲ってくるんだ。



本当は、

無視なんかしたくない。

幸信ともっと話したいよ。


そんなちっぽけなことも許されないの?


幸信、生き返ってよ…


そんな子供染みた、叶いもしない願いを本気で叶えて欲しいと思っている私は幼稚だろうか……



私は痛む胸を抱えながら音楽室に入った。





「夏希ちゃん、なんかごめん…」


「なにが?」



音楽室でお弁当を食べるだなんて、しかも聖也くんと二人で……


違うか、幸信も隣にいるから三人だね。



「いや、音楽室入ってきてから夏希ちゃん機嫌悪いみたいだから…」


「え…」



私、機嫌悪い…?

そんな膨れっ面してるかな。



「別に機嫌悪いわけじゃないよ。早く食べて指揮の練習しよ?」


「うん」



聖也くんは微笑みながら返事したかと思うと、凄い勢いでお弁当を食べた。


その姿が面白くて私は笑っていた。


確かに早く食べようって言ったけど、そんなに急がなくても…



「そんなに急いで食べると喉につま…」


「%※△○☆&#!」



喉につまるよ?そう言いかけた時、聖也くんは頬をパンパンに膨らませて空のお弁当箱を私に見せながら笑っていた。


口にいっぱい入り過ぎて何て言ってるのかわからないし…


私は、また笑った。