愛してるの言葉だけで。




私は絞るに絞って、可愛いレースのスカートと最初に目をつけたマキシ丈のワンピースで迷っていた。


もう、どっちも買っちゃおうかな…

でも、そんなお金はないし。



また、お母さんに、

「また無駄使いして」

って言われるだろうし…



よし、決めた!


私は悩みに悩んで、スカートに決めてレジに向かおうとした。



その瞬間。



───それ買うの?それじゃなくて、そっちのワンピースの方が俺好み。



「なっ…」



あなたの好みなんて知りません!

聞いてないから!



「私はスカートの方がいいのっ」



───そうか?俺はワンピースの方が可愛くて夏希に似合うと思うけどなぁ~。



「………」



そう言われるとワンピースの方が可愛く見えちゃう。


私の優柔不断はお父さん似だっけ……


お父さんの遺伝を少し恨みながら、スカートをもとに戻してワンピースを手にレジに行った。



なんか……


私、頭の中の男の子と会話してるよ。



頭がおかしくなっちゃった?





私は、スッキリしない気持ちでデパートから帰宅した。



姿を見せてくれないなら、
せめて誰かぐらい教えてくれたって…



この声の主が、普通の人じゃないってことは何となくわかってる。


声の聞こえかたが普通じゃなくて、頭に響くような感じだし…



どう考えても、普通じゃない。



この男の声は、私の幻想かな?

私が勝手に声が聞こえている、と勘違いしてるだけなのかも……




「ねぇ……、名前教えてよ」


───幸信だけど?


「幸信……」




ゆきのぶ……

どうして姿が見えないの?



聞きたいことは山ほどある。

でも、何となく触れちゃいけないような気がするんだ。




幸信……

あなたはこの時、どんな気持ちでいたの?


どんな気持ちで私に声をかけてくれたの?








第二章:桜の木の下で



満開の桜の下…

あなたに出逢えて、

本当に良かった。





今日の朝の空は、私を祝うように眩しい太陽が顔をのぞかせていた。



いつもと違う気持ち。


ドキドキと不安が混ざってて、

でも、気分は不思議と悪くない。



昨日の夜に何回もチェックをした、新しい制服を手に取った。


少しダブッとした感じが気になるけど、時期に慣れると思う。



「よし……」


───夏希、スカート短い…


「今日は幸信の言うこと聞かないから……幸信はスカートにうるさい」


───風邪ひいても知らねぇよ?


「いいよーだ!」




…いつからかな、幸信と会話するのが当たり前になっていた。


もう『おかしい』と思うことはなくなっていた。



幸信は優しい。


声だけしかわからないけど、声だけしかわからないからこそ、性格がよくわかるんだと思う。



幸信に会ってみたい…──



そうゆう思いが強くなっていた。










「行ってきまーす」



いつもと変わらない朝なのに、全然違う世界にいるような気分になる。



『入学式』ってだけでこんなにドキドキしてる……



上を向いてもピンク。

下を向いてもピンク。



そんな道を私はゆっくり歩いていた。


周りの人は同じ制服の人もいれば、違う制服の人もいて。



全てが新鮮で…


今の私には『ウキウキ』という言葉がピッタリだった。



───夏希、ニヤニヤすんなよ。きもいって思われるぞ?


「えっ?」



幸信の言葉に私は恥ずかしくなって、両手でほっぺを包み込んだ。



私、ニヤニヤしてる!?



───ふっ…



幸信が…

……笑った?



次の瞬間に、なぜか私は走り出した。


自分でもわけがわからなかった。


でも、

気持ち良かったのを今でも覚えている。



……青春してる感じかな?



それは、それは、幸せな風が私の体を包み込んでいた。





私はそのまま勢い良く、ルンルン気分で門をくぐり抜けた。



よ~し、三年間頑張らなきゃ…


何があっても、学校だけは絶対に辞めないって決めていた。



私は、人だかりのある場所にゆっくり足を進めた。


……クラス表があるから。



しかし、人が邪魔でなかなか前に進めない。


自分のクラスがわかったんなら、さっさと自分のクラスに行けばいいのに…


そう思いながらも言葉にはできない。


なんか、情けないなぁ。




「お前らさ、邪魔になってることに気づかないわけ? 自分のクラス確かめたら、さっさと自分のクラスに行けよ」




真後ろから聞こえた声に私はびっくりして後ろを振り返く。


そこには、黒髪ではあるが腕捲りをしてネクタイを緩めた雰囲気がどことなく怖い男の子が立っていた。



その不良っぽい男の子の言葉に立ち止まっていた人達がゾロゾロと移動し始めた。



すごい…


この人の言葉だけで、みんな移動しちゃったよ…




その人は私に、


「言いたいことあんなら自分で言えよ」


と言った。そして、クラス表をしばらく見つめるとすぐにどこかへ行ってしまった。



きっと、自分のクラスなんだろうけど……



名前、何て言うんだろう?

クラスは何組かな?


お礼、言えなかったな…



───夏希、惚れんなよ。


「…うん、大丈夫。惚れてない」



胸はドキドキしてないし、

ボーッともしてない。



惚れんた時の症状ぐらい知ってる。

私だって恋ぐらい…



そうムキになりながらクラス表を見て、1組のところで【坂井夏希】を見つけた。



私は1組に向かって歩みだした。



そして私は、クラスに行くとすぐに自分の席に座る。



実は……、

極度の人見知りなんだ。



しかし、麻子は中学の時にいつも一人でいた私に話しかけてくれた唯一の人。


花菜は幼稚園から一緒だからいつ仲良くなったか覚えていない。




友達って、どうやってつくるんだっけ!?


ひとり自問自答していると
いきなり、ざわざわしていた教室が一気にシーンとなった。



私は、わけもわからずキョロキョロ辺りを見回す。



───あいつが来た。



あいつ?



その幸信の言葉に黒板横のドアから、さっきの不良っぽい男の人が入って来るのが見えた。



何で、あの人が入って来たらシーンとなるの?


理由は何となくわかるけど…


そこまで毛嫌いしなくてもよくない?


さっきだって正しいこと言っただけだし…