「分かった」


しばらくの沈黙の後、内野コーチが呟いた。

私はハッとして顔を上げた。


「明日から練習に戻るよ」


「え!?本当ですか!?」


「宮瀬は、俺のこと憧れてるみたいだし、俺じゃなきゃダメなんでしょ?」


内野コーチがニヤリと笑った。


「!!」


言い返せない自分が悔しい。

私はフンっと顔をそらし、体育館脇に置いてあったスポーツバックをあらあらしく背負った。


「心空!明日からまたいっぱい教えてやるからな!」


初めて心空と呼ばれた私の心臓はドキドキと異常な速さで動き出す。


「内野コーチより上手くなってやるんだから!」


私は振り返り、笑顔を浮かべた。





その頃の私は、まだ、内野コーチの抱える大きな悩みに気づいていなかった。


どうして気づかなかったんだろう。


こんなにバスケットが上手い内野コーチが、プレーヤーではなくコーチをしている理由を・・・・・・。