そしてそれは愛都も同じだった。


『ココちゃん』と言いながらゴロゴロ私になついてくるような笑顔は、そこには無かった。


長い前髪を小さいクリップで留めているあたりは、愛都らしかったけど、フワフワの髪の毛は汗でしっとりと濡れていた。

ぺっちゃんこになった、愛都の髪の毛。

練習後になでなですることを考えると、少し残念な気持ちになった。



男女合わせて30人近くいる部員達は無駄話一つしてなくて、聞こえる音は息づかいの音と、バッシュのゴムがキュッキュと擦れる音だけ。


「新野(にいの)!!もっと体制低く跳べるだろう!指をつま先につけろおお!!」


いきなり聞こえた怒号に思わず振り向く。


「あれが、噂の黒さん……」


「オーッスッ!!!!」


愛都の声…いつもと違って男らしい。


新野っていうのは愛都の苗字。

怒号の威力なのだろうか。

少しヘロヘロになっていた愛都の足に力が入る。