「大したもの出せないけど、お粥くらいは作れるし、薬もあるし……」

「ま、待って!」

さっきまでぼんやりしていたのが嘘のように、頭が働く。待って。キミの家に、なんだって……?

「どうしたの?」

「いや、それは……だめ、じゃない?」

「なんで?」

なんでって……。ちょっと寂しげに揺れるキミの瞳に見上げられて、息が止まりそうになる。それが“だめ”な原因なのに。

「何か問題あるの?」

……ある。僕がキミに何もしない保証がないから。保証というか、自信がない。僕は彼女が好きで、その彼女と密室で2人きりになったら、多分、本能に打ち勝つことが出来ない。想い合っていない男女が(僕は想ってるけど)そういう行為に至ったりするのは、大問題じゃないか。

「吉良くん……もしかして私の部屋入りたくないの?」

「まっ、まさか!むしろ……」


言いかけて口を閉じた時には遅かった。嬉しそうにクスリと笑うキミ。

「むしろ?」

「いや……」

「ま、いーや。じゃあ決定ね」

僕は今どんな顔をしているんだろう。いつの間にか繋がれていた手に、うっすらと汗が滲む。

街灯に照らされた2つの影を見て、やっぱりこれは夢なんじゃないかと思った。