活動を縮小したいと申し出たとき、どうしてもこれだけはこなしてほしい、と言われた仕事があった。三本のCM撮影と、ホビー雑誌の連載エッセイの継続、そして契約が決まったばかりのファッション誌の専属モデル。負担が少なく、かつ世間から忘れ去られてしまうのを回避するために事務所が厳選してくれた仕事だ。ワガママを通してもらっている以上、きっちりこなさなければならない。今日は、専属モデルとして臨む初めての撮影だ。

スタジオは慌ただしくセットの準備をしていたため、そちらの挨拶は後回しにして控室に入る。そこには顔なじみのスタッフがちらほら見受けられた。映画やドラマのプロモーションで、何度か特集記事を組んでもらったことがあるのだ。この雑誌の現場はいつも和気あいあいとしていた。

さっそく衣装合わせをしてヘアメイクに取りかかる。顔に様々を塗りこめられるその最中に簡単なインタビューを受けた。高校生活には慣れたか、どんな勉強をしているのか……学業を優先したいと宣言しているオレを気遣う質問に、真摯な表情で、ときに笑いを交えながら答えていく。

「こんなに人気があるのに将来を見据えて勉強に打ち込むなんて、かなで君は努力家ね」

褒められて、オレは「そんなことないですよ」とはにかんでみせた。謙遜じゃない。俺は努力なんてしたことはないのだから。

準備を終えて、ふと気づく。鏡に映る自分がやたらと大人っぽく仕上げられている。スタイリストが満足気にうなずいた。

「うん。かなり印象が変わったね。今回のコンセプトはカメラマンの方のアイデアなの。今までとは違うかなで君を撮りたいんだって」

そういえば、相川さんが「新しいチャレンジをしましょう!そのための準備も万全よ!」と張り切っていたような気がする。いつのことだったか、たぶん最近。

「なんだか落ち着かないな。オレにできるかな」

「できるよ!すごくカッコイイもん、自信を持って!」

励まされて奮起する、ふりをする。可愛げのあるところを見せるほど味方は増える。
しかし、ダブルライダースなんて着るのは初めてだ。オレはここ一年で身長が八センチ伸びた。子役時代のイメージのままに可愛らしい服ばかり着せられていたけれど、こういうハードなものを着ても違和感がないくらい成長しているのだ。それを見抜いたカメラマンはなかなかセンスが良いらしい。